ご本、出しときますね?:若林正恭
BSで放送されていた「文筆系トークバラエティ ご本、出しときますね?」の書籍化。
ふだん生態のわからない小説家にスポットを当て、ビブロネリア芸人としても名高い、若林正恭の進行でおくるトークバラエティ。
世間に対して後ろ体重な若林氏のテンションが生態不明な小説家の空気によくマッチしていて面白い。
毎回稀代の作家先生たちの繰り出すワードはどれも深イイねで考えさせる。
ちょっとかいつまんでご紹介。
第一回 朝井リョウ×西加奈子
同期の子(作家仲間)と仲がいいという西氏の指摘に対して…
朝井「内側を向いて円陣を組んでいるんじゃなくて、みんな背中合わせの状態で銃を構えてる」
仲間ってのはこういう状態がベストかなって憧れる。
その場にはいないんだけど、後ろで一緒に戦ってるのはわかってる安心感ってやつ?
ラグビーの「ワンフォアオール・オールフォアワン」ってのがもともと苦手なもんで…(個人主義)
若林「今日わかってもらおうとすると口喧嘩になる」
その場で理解してもらおうとすると、ついきつい言葉になる。自然説教臭くなる。これは避けたいね。
第三回 長嶋有×朝井リョウ
エゴサーチして嬉しかったことはなにかを聞かれて…
朝井「僕は、すっごい怒ってる人!僕の本を読んで、怒ってる読者がいると嬉しい」
怒っているということは、自分の大切な何かを乱されたということ。
ただ読者に「共感しました!」という感想を抱かせるだけじゃだめなんだね。
もっと強い何かを生まれさせるのがクリエイターとしての真骨頂なんだろねぇ。
朝井「安易に弱者の味方をしない」
圧倒的に支持される立ち位置で書けば、共感を得られて本は売れる。でもそれに染まってしまっていいのか?と自問自答することば。
ロイヤルホストを例にあげてたけど、ロイホはまったくマーケティングをしない。他社が季節に合わせたキャンペーンをはじめても、まったく違う方向のだれも知らないようなフェアを開催したりする。
これは担当のシェフがおいしいと思ったからやるんだって。それだけの理由。そのためにCMとかも全然しない。その分の宣伝費を材料費に回しちゃう。
つまりマーケティングをする人とモノをつくる人は一致しちゃいけないということを言ってるわけ。
なるほどなぁ。誰もが欲しがるモノを提供するのではなくて、自分が良いと思ったモノを作り上げるストロングスタイルが理想ってことね。
長嶋「全部完璧なセンスにしている部屋を信用しない」
普通に生きていたらノイズのようなものをもらったりする。人からもらったおみやげや大して必要じゃない本とか…
キレイすぎる部屋はそういったものを冷たく捨てているのであろうと推測できる。
ミニマリストには耳の痛い話だね(汗)
好きなものだけに囲まれる生活もよいが、多少のノイズがないと人間味がなくなる感じ?そういうのあるかも。
第四回 加藤千恵×村田沙耶香
加藤「才能があるを褒め言葉にしない」
才能って本人の努力じゃない気がする。努力が置き去りにされてしまう。
もって生まれた才能よりも努力を褒めてもらえるとうれしいのは確か。
第五回 平野啓一郎×山崎ナオコーラ
平野「何かがほしいと追求している限り、どこかであきらめなきゃいけないことがある」
人生では仕方のないことがある。でもそれを「努力でなんとかなる」といわれると「自分の努力が足りないだけじゃないか」と考えてしまう。
だからどこかで「自分じゃなくて世の中が悪い」と思うことは自分を守るためにもあっていいと思う。
なんでも努力でまとめる風潮はしんどいね。
第六回 佐藤友哉×島本理性
島本「嫌いなものの批評はしない」
自分にはわからないものに対して、安易に批評しない。
自分にはわからないもので、明日救われる誰かがいるかもしれない。
嫌いなものを嫌いといっていい世の中になってきたが、それを良しとする人も存在するってことをちゃんと理解しておきたい。
第十回 窪美澄×柴崎友香
柴崎「人の為にやらない」
自分の行動に大義名分を与えちゃうのはよくない。
まずは自分ができる範囲で、自分がやりたいと思うことをやって、それが結果として、誰かの役に立ったり、喜んでもらえればいい。
そうだよなぁ。「あなたのために言ってやってる」ってアドバイスほど身に沁みないもんね。
本の紹介
毎回、ゲストがテーマに沿った一冊を紹介してくれる。なかなか自分では手を出さないジャンルもあって興味深い。
第一回 朝井リョウ×西加奈子
異世界の人が理解しあうのにオススメの一冊
加藤秀行『シェア』
第二回 西加奈子×長嶋有
憧れの人やスーパースターにまつわるオススメの一冊
スティーブン・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』
第三回 朝井リョウ×長嶋有
ネットとの付き合い方がわからない人のためのオススメの一冊
ミランダ・ジュライ『あなたを選んでくれるもの』
第四回 加藤千恵×村田沙耶香
変態の気持ちがわかるかもしれないオススメの一冊
岸本佐知子『恋愛小説集』
第五回 平野啓一郎×山崎ナオコーラ
肩の力を抜きたい人にオススメの一冊
森鴎外『高瀬舟』
第六回 佐藤友哉×島本理性
夫婦で読むのにオススメの一冊
島尾敏雄『死の棘』
第七回 羽田圭介×藤沢周
世界の実相を掴みたい人にオススメの一冊
古井由吉『辻』
第八回 海猫沢めろん×白岩玄
悩める二十代の道を照らすオススメの一冊
桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』
第九回 中村航×中村文則
自意識をなんとかしたい人にオススメの一冊
太宰治『きりぎりす』
第十回 窪美澄×柴崎友香
猜疑心に苛まれる人にオススメの一冊
栗原康『村に火をつけ、白痴になれ』
第十一回/第十二回 角田光代×西加奈子
ズルしたくない人にオススメの一冊
開高健『輝ける闇』
特別鼎談 尾崎世界観×光浦靖子
他人に寛大になりたい人にオススメの一冊
村上龍『ライン』